グーグル自動運転車は9割完成、残り9割?

プログラミング界では90対90の法則が知られている。コーディングでは、推定開発時間の90が最初の90の作業にかかり、残りの10にはさらに90かかるという皮肉交じりの表現で、技術プロジェクトには常に予想を超える時間がかかることを示している。

グーグルと同じく米アルファベット傘下の自動運転車開発企業ウェイモでエンジニアリング部ディレクターを務めるサーシャアルヌーは先日、マサチューセッツ工科大学MITでゲスト講師として講義を行った際、この法則の変形バージョンを使って同社の自動運転車開発プログラムの現状を説明。同技術開発の最初の90には10の時間しかかからなかったが、残りの10を完了するにはその10倍の労力がかかっている、と語った。

アルヌーの講義は、今までのプロジェクトの複雑性を細部まで鮮やかに描き出し、同社が、そしてそのパイオニア的取り組みに追い付こうとする人が今後直面する課題についての見識を提供するものだった。彼の講義から学べることは次の5つだ。

1産業化には10倍の労力がかかる

研究室でうまく動作する試作車を、道路で使用しても安全な産業用の製品にするには、膨大な時間がかかる、とアルヌーは強調した。10倍の技術力と、10倍のチーム規模が必要となり、より多くのエンジニアや研究者が協働するための効果的な方法を見つける必要もある。10倍のセンサー能力が必要で、試験方法を含むシステムの全体的な質も10倍に改善しなければならない

2深層学習でアルゴリズムが大幅に進歩

アルヌーは、2010年にグーグルが自動運転車の開発を始めた時点では、ディープラーニング深層学習技術が今ほど進んでいなかったと話す。それから数年の間に同技術は進化し、マッピングや認知、シーン理解など、自動運転の重要分野でアルゴリズムが画期的に進展した。

ディープラーニングを利用して路上の画像を分析し、道の名前や番地、信号、標識などの情報を取り出すこともできる。こうしたデータを事前にコンピューター処理し、マップとして車に保存することで、貴重な車上処理能力を節約し、リアルタイムタスクに割ける。

ディープラーニングを通し、リアルタイムタスクも大きな進化を遂げている。例えば信号や他車、障害物、歩行者を特定するためのセンサーデータの解析だ。ディープラーニングにより、周囲の車や自転車、歩行者の取りそうな行動を予測し、それに合わせた走行を支援することもできる。

3カギはグーグル他部署との連携

アルヌーは、ウェイモの進歩にはグーグルの機械学習エコシステム全体が非常に重要だと認めた。これには、AI研究部門のグーグルブレインのほか、視覚、発話、自然言語処理、地図情報などの分野で行われる大規模なディープラーニング研究が含まれる。さらに、グーグルのエコシステムからは、機械学習のための特別なインフラやツールが提供される。

4ウェイモ成功の秘密は試験プログラムにあり

アルヌーは、現実世界での走行とシミュレーション、体系的な試験の3本柱からなる試験プログラムが、同技術のイテレーション反復作業と製品化に重要な役割を果たしていると語った。ウェイモの車はこれまで、運転手なしで公道を約640万キロ走行している。これは米国人の年間平均運転距離の300倍で、地球の160周分に相当する。

現実世界の運転も非常に重要だが、それよりも重要なのはシミュレーション能力だとアルヌーは語る。ウェイモのシミュレーション試験能力は2017年の時点で、2万5000台の仮想自動車に実際の道路やその改変版を約40億キロ走行させられる規模だという。

3つ目の要素は体系化された試験プログラムだ。現実世界の運転で起き得るあらゆる場面に遭遇しようとする代わりに、ウェイモは約36万平方メートル規模の模擬都市を作り上げ、自動車の試験を重ねている。この結果はシミュレーションエンジンにかけられ、さらなる試験のため変形バージョンが作られる。

5ウェイモの次の課題は大きく、困難

アルヌーは最後に、ウェイモを待ち受けるエンジニアリングの課題について言及し、次の大きなステップとして以下の2つを紹介した。

1つ目は、自動運転車の運用設計領域ODDを、サンフランシスコなどの密集した都心部や、豪雨雪霧などの天候にも拡大すること。

2つ目は、アルヌーが意味論的理解と呼ぶもので、例としてパリのエトワール凱旋門の環状交差点を挙げた。この交差点は12の道路が合流し、運転が難しいことで有名だ。こうした状況では、認知力や運転スキルだけでなく、現地のルールや期待される行動を深く理解し、他の運転手と常にジェスチャーなどのコミュニケーションや連携を取ることが必要になる。こうした深い推論は、微妙な判断が求められる数多くの事例に対処し、自動運転車の全体的な能力を改善する上で重要だ。

ウェイモが自動運転技術で既に大きな進歩を達成していることは間違いないが、アルノーは講義の締めくくりとして、自動運転の安全性を確保するために必要なインフラ設計やスケーリングの複雑性といった問題に焦点を当てた。

産業化プロセスの最後の90のうち、ウェイモは現在どのあたりにいるのだろう?アルヌーは明言しなかったものの、講義の最後では、複雑性の問題を示すため、交差点で止まったウェイモ車の周りを子どもたちがアーケードゲームフロッガーのように跳びはねて道路を横断する動画を紹介した。彼はこの動画で、自動運転技術は待つ価値があるものだと示したかったのだろう。